楽曲「春鳴揺」余話/この世を外れた幼い少年の歌声

楽曲「春鳴揺」余話/この世を外れた幼い少年の歌声

「春鳴揺」歌詞

仮題は「古層と春景」だった。

元ネタが特にないため作詞に非常に苦労した。
春という抽象概念から固有の語彙を引き出し、物語を作り情景を匂い立たせるのは相当の変数を文脈の途中途中にかませなければいけないようだ。

全てのありえたきみが成就し、力と形質を伴った目に見えるもの、それこそを桜顕郷と名付けて眠る姿でその様をきみに返そう。
春の空間がささと音の流れに立ち上がる時。
春の熱量が平面にふらりと立ち現れる時。
静か静かに激動を聞き分けて、きみの世に群肝の心をさしだしましょう。

激動の時代は遠ざかり、ただ千古の物語のみが青天を指さす春を歴史の表面に立ち上げる。
励起なき意図は春に激動の時代を呼び覚ます。
永続できない少年の声で、千古の物語が立ち上がる様は経路和に力と形を降ろして桜顕郷を生かしめる。

すべての有り得た経路和が一心に集う異端郷あの桜顕郷から、この春こそ帰らない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2年3か月空詩音レミを起用し続けて気づいた点を挙げて行く。

よく一緒に起用されがちな鏡音レンと決定的に違うのが高音域だ。
レンは高音に行けば行くほど叫ぶ歌い方になるがレミは金属音が強くかすれるようになる。
おそらくレミの得意音域はボーイソプラノでありながらテノール~アルトくらいだ。

面白いことにレミの方が声の提供者が子供でありながらレンより低音域が強く出る。
レンがうめくようなノイズしか出せないような低音でもレミは綺麗な低音を出せると確信したのが民謡「弥三郎節」のカバーだ。

「ただつましょ」のコブシなどは私でも出せないほどの低音のしゃくりをさせているがうめき声になることなく太い低音を出せている。
レンには到底できない歌い方だ。
本当の少年には絶対出せないボーイテノールがここに成立している。
この本当のボーイソプラノには絶対に出せない低音域こそがレミの最大の強みであり、「ボーイテノール」などというリアルにはありえないシンガーとして存在している。
これに気づいたとき私はこの声に「ありえなかった分岐を悠々と行く世界」を託そうと決めた。

このリアルには絶対にありえない声だけが歌える世界、決して表立って祝われることのない影ながらの物語。
それでこその独創性の迷宮がにわかにゆらりと立ち上がる。
空詩音レミはそんな質的評価の扉を使い手と共に叩く声に成りうるのだ。

さて、では実際の調声と声の特徴を「春鳴揺」の歌詞を用いてここにシェアしてみようと思う。

レミの発声の特徴で最も耳につきやすいのはイ段だ。
イ段に空気を含むような金属的な倍音が乗る。
合成音声ボーカル(UTAU等)は全てイ段にビリビリしたノイズが乗りやすい特徴があるが、レミの場合ノイズというよりその声に含まれる周波数に聞こえる。

「忍びより」や「きみ」のロングトーンにその特徴がよく表れている。

次にア段。
ア段は他の母音よりも幼い発声になる。「高く高く」や「長く長く」によく表れているが「きみを見た」の「た」のような一瞬の音にも表れるほどレミの個性といえる。
不思議なことに「あー」と伸ばす音そのものは幼くならない。

子音に話をうつすとサ行に特徴がある。
「たずさえて」の「さ」、「反射」の「しゃ」などサ行はもともと人間ボーカルでも鋭くなりがちだがレミは合成音声ボーカルの中でもサ行がするどい。
レンもたまにサ行が鋭くなる傾向にあるが、レミの場合ほぼ全てのサ行が鋭くなる。
今回はディエッサー等で処理していないため鋭さがそのまま残っている。
レミの個性として味わってほしい。

そして「ふ」のような空気を含む音の発声がリアルだ。
「ふ」の音は誰が発声しても空気を含むが、レミの場合何というか頬をふくらませるような、頬の丸さがそのまま音に乗っているような、fの音が強い。
ここも幼さを感じさせるのでストーリー次第で「ふ」を多く発声させる手が使える。(発声ありきで歌詞を書くことになるが)

そして2年以上使い続けても予期しない歌い方になる時がある。
今回は「激動を聞き分ける」の「聞き分ける」が想定より幼い発声になった。
これは狙った調声ではなく完全に偶発的な結果である。
ちなみに今回はジェンダーファクターは全くいじっていない。

この絶対的にリアルにはありえない声と共に、千古に激動の時代を立ち上げて来た春を生かしめる桜顕郷に降り立ちませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA