楽曲「あめよみ」余話

楽曲「あめよみ」余話

ヨハドは時の流れのある点で、たわけ者の男の姿を取った。

時の流れのある点で、是の如くと我聞けり。
その時の流れのある点にはあめよみ、という唐傘お化けに似た妖あり。
以下は「あめよみ」に関する複素録である。

特定の姿をとらない「あめよみ」は、目に見える「あめ」を求める者には目がなく、憑りつかれた者はしばらくの間寝食も忘れて「あめ」を読み続け、「あめ」を際限なく求めた挙句ある日突然人の形を保てなくなり、人体から流れ出しこの世から消えていくという。

なお一度呪われると祓う方法はなく無理に祓えば死に至り、その魂は里なる地へ行き着くとの伝承あり。

古来は主にものづくりに携わる者に好んで憑りついたものの、現代では人を選ぶことはなく、むしろ老若男女問わずがあめよみを好んで呪ってもらう有様である。
なぜなら憑りつかれてから人でなくなるまでの短期間、その者は生まれてからただ一度だけ黄金時代の神話を生きることができるからだ。
つまり、人気者になるという夢を。

その、初めて人の間に存在する感覚への魅力は命を進んでさしだすほど抗いがたく、多くの者があめよみを身の内に宿した結果一夜にして一つの街が水没した。

ヨハドはたわけ者らしくただあめよみの前を歩くだけである。
ただただ共に歩いていくだけの無名の姿だからこそ、ヨハドは確かに里なる地を生きた心地のまま望んだのだ。

あめよみ。
憑りつかれれば、その者は生き始めてから初めて本当に人の間で生きているような感覚の幻影をただ一度だけ味わうことができる。

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パート同士の連結に苦労した曲だ。

特に三味線が入るパートは三味線フレーズから先に作ったため、三味線の運指に縛られてその他の楽器と歌メロの整合性を取るのが大変だった。
もう聞きなれてしまったために自分では分からないがもしかしたら奇妙な曲に仕上がったかもしれない。

曲調としてはアルバム「複素録」らしく全体的には日本の暗がりだが楽器には洞簫や古琴など中華楽器も仕込まれており、いつもの「どこでもない場所はどこでもある」の思考に着地している。

歌詞の特徴としては「里悟り」や「無き亡き者」など音としての繰り返しを多用した。
視覚情報の漢字と同音異義の宝物の相乗効果を持つ日本語を足掛かりにした脈絡を外れたイメージの飛躍に役立つはず。

イントロに入っているサンプリングは秋山裕和さんの「聖堂のレリーフ」。
一見西洋ファンタジックな特徴を持つが、この曲のハープやフルートフレーズが日本、中華楽器を多用した曲の上に乗るとあら不思議。
妖たちが潜む愛しい暗がりを朗々と肯定的に語り出す、俯瞰したような語り部と化す。
化かされましたね?

最後に、この余話をわざわざここまで読んでくれた人が知りたいであろう、「なぜFred OARAOさんにボーカルをお願いしたか」を。

私はもとからフレッドさんと知り合いだったわけではない。
この方を知った経緯はもちろんあの名曲「ポーポポーポポ」のおかげだ。

なるほどまず耳に残る歌詞が強烈だ。
そしてオケの音使いも一度聞けば脳内にループするほどキャッチ―だ。
ボーカルの声そのもののも良いし印象に残る。
何より鳩で一曲作ってしまうセンスよ。
だが何よりこの人に自作曲を歌ってもらいたいと私に思わせたのは

「わたしは忠犬です」の韻の踏み方だ。

日本語ネイティブならこの韻はまず踏めない。
「タ、タ、タン」という3音に「わたしは〇〇です」というしばりで「犬」と入れたかったら日本語ネイティブなら(というか私なら)間違いなく

「いぬです」といれる。

それまでの歌詞で「わたしは鳩です」「わたしは蟻です」と言っているなら、私なら間違いなく「わたしは犬です」で韻を踏む。
簡単だし分かりやすいしそれでおしまい。何の問題もない。

だが、そこになんと「忠犬です」が来る。
このセンス、私には絶対に真似できない。

いや、すごくない?たった2音の短い八分音符二つにchu-kenを持ってきている。
ラップと歌の合わせ技のような。
常に母音と子音がセットになる日本語の限界にメロディ作者と作詞家の多くはひらがな五十音で挑むが、すごい方向から新しい方法を見せてもらった気がする。
もしかしたらこの曲の歌詞は多くの日本語曲とは違い「ひらがなではなく日本語の音そのもの」もしくは「ローマ字」で考えられたのではないだろうか?
日本語ではなく音そのもので作詞する、という方法が私にもできるならやってみたい。

この才能に自作曲を歌ってもらえないだろうか、という無謀な希望の元いきなり英語でメールを出した。(いつもシンガーにお願いするときはこの方法だ)
そしてOkをもらいこの「あめよみ」の完成となる。

どうかこの曲がフレッドさんの魅力を引き出していますように。

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