楽曲「一来童女」余話

楽曲「一来童女」余話

さて、いつもの通り余話だ。

今回は何よりもボーカルのことを。
タイトルにある「童女」の通り、そして以前宣言した通り毎年八月に発表している仮想ネットワークアルバム「童子物」に属する今年の曲は童子ではなく童女になった。

というのも近年クラウドソーシングサイトでしばしば子供の声で歌うサービスを提供している人が数は少ないものの存在するので、今ならボーカロイドでも大人のシンガーでもなくリアルな少女の声で童子物の世界の物語を展開できると見込んだからである。
クラウドソーシングサービスははっきり言えば好きではないが、私にはボーイソプラノシンガーとの人脈はあるものの子供の女の子シンガーとのつながりは持っていないので使えるものは使おうと割り切ってシンガー探しをした。
大体依頼したいシンガー候補を2人ほど目星をつけた後、曲作りを終えていざ依頼へ。

と意気揚々と踏み出したところズッコケた。
サービス停止中……。
何ということ。

二人とも本人の兄弟(男の子)はサービス提供しているものの、肝心の女の子シンガーは何と2人とも活動休止中になっていた。
ボーカリストへの依頼はどうしても曲を作り終えた後でないとできないのでしばしばこういうことが起こる。
だからこそ2人も候補を見つけておいたのに。

で、どうする?
歌詞や曲、世界観、ストーリーは別に男女は問わないもののイラストはもう少女の絵で発注してしまったために今更「やっぱり童子です」とは言えない。
そんなの簡単だ。
少年に少女を演じてもらえばいい。

瓢箪から駒のような展開だが、成り行き上の偶然にしては面白い現象が発生したと思う。
鏡音レンのように女性や少女が少年や男性を演じることは珍しくもないが、逆はあまり聞かない。
特にボーイソプラノの少年が少女を演じるというのは本来有り得ないことなのかもしれない。
なぜならその理由がないから。
逆はいくらでもあるものの変声前の少年が少女を演じる、演じなければいけない状況は普通なら発生しない。

だが、その普通じゃないことが図らずも2つの偶然が重なり今回発生した。
こんな奇跡でも起きなければ「ボーイソプラノシンガーに少女を演じてもらう」というネタは一生思いつかなかったままかもしれない。
打ち込みオケとボーカロイドだけで一人完結して曲を作っていた時代には絶対に起きなかった奇跡だ。

こういう粋な奇跡がポンと目の前に放り出されるからこそ、創作で他者と関わるのはやめられない。

結局いまだ少女シンガーとの人脈はできないままボーイソプラノシンガーとの縁が一つ増えた。
この縁起は次はどんな天の網を揺らすだろう。

ところで送られてきた歌のデータを聞いたところ、やはりこの子に依頼して大正解だった。
まだボーイソプラノまではいかないどこか幼児を思わせる声。

今回の歌詞には一部古歌のもじりがあるのだがこういう幼い、本物の子供の声が古歌を歌うとどこか昔の空間が立ち上がるような、時間空間の制約を外れたところで平安の頃から響いてくるような漠然とした懐かしさ、寂寥感がある。

子供が大人になるまで生きられるのは当然ではないのだと訴えかける声。
この時空はいまだ平安と、江戸への本道に続く、天狗と神隠しの延長にある。

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