恬淡余話

[Blue Lotus]

諦念を得て、教養と静けさをたのみ理致と天性の戯れの境地を一飲みに平定の里を作り出し、取るに足らぬきっかけが転がり出す敗者自在の隠れ里。

愚かしく投げ捨て諦めた選択肢が金色の到来を連れて戻り来る、落人たちの里の物語。

01「春の骨子」

雨誘う風しめやかに内ゆふ衷情渡るに如かず
姫の御簾上げの神降けにきみの姿重ねている

執着の世を彫琢と説き春雪をして自徒せしめ
虚白の窓に池を揺らして破れぬ月に定まるるきみよ

春の骨子に霈澤の清吟じて言葉なく
春の薫りに蕭条の世をただ描いているの

時措の宜しきを過ぎにして移ろう標榜虚栄之有
ただひとひらの詩なれど蕞爾の性之無也

管窺の門に出でる影なくて舌鋒は命を持たぬまま
閑窓の側東山の際警醒の匠の名月よ

春の明媚に賦天の大愚ただ嘆いているの

春露を呑み折から忘れ五十年の定業瞬息の

きみ時を生み黙して映り水面流れて聞こゆ墨の香

春の骨子に紫の雲暁は麗し
春の限りにその春旻に
ただ揺らいでいるの

春の骨子に蓋世の雨山海はまどろみ
春の薫りにこの顚沛をただ描いているの

02「回廊親王」

階下へ下る一人道中のさなか、回廊親王はふと耳にした。

「見よ、アナンダ。世界は美しい。」

凍えることなく渡る炎は分かち難い色を燃え
五色の通い路二つの国を織り成す王こそ祝え

答えることなく駆ける姿は忘れ難い化城喩で
千古の口伝が掴む言葉で
こぼれる日々こそをかし

たよりもなくとり上げる孤独な産声
(たよりもなく届けば 迎えよ)
途切れ途切れの確信が
きみを、きみを、抱き寄せる
(覚えずきみを抱き寄せる)

秘める深くできみが芽吹く
惑う回廊でまた出会う
眠る大海と跳ねる雨粒で
生きる想いこそ限りはない

兆しもなく蘇る階下の足音
(兆しもなく誘うよ 絶えずに)

離れ離れの推定が
きみと、きみと、歌い出す
(覚えずきみと歌い出す)

澄める深くできみと生きる
炒れる不可思議をすくい上げ

そよぐ金色と外れ雨音で
遊ぶ命ほど自在はない

秘める深くできみが芽吹く
惑う回廊でまた出会う
眠る大海と跳ねる雨粒で
生きる想いこそ限りはない

03 [Rainy Ag]

白熱する磁場は時の流れの中に、明晰な星の時間をほんの一時もたらす。

歴史の趨勢は個人の視点からは遠く、天上から見下ろす雨に飾られた街は消える定めと決められている。

もうずっと昔からそういうことになっていたのだ。

さぁ、あの慕わしい秋の一日は狂乱の時の流れから僕らの魂を呼び戻してくれるだろうか?

余話

Hollow breath lost in the ash was blew away
(虚ろな呼吸は吹き飛ばされる灰の中に消えた)

When singers’ rain fell into death under the town in the light.
(うた歌いの雨が光の中の街の下、死の手にゆだねられたなら)

All every life, the lucid, born of gentle line,
(すべての命よ、明晰で高貴なる血に生まれた者よ)

(to) whoever listens to the one
(聞きとし聞けるすべての者に)

Why not tell our tale of tales?
(どうぞ僕らの物語を語らせてください)

Under the cloak of flowing time, we caught a night
(流れる時のベールに隠されて、夜を捕まえた)

While ancient weeping of the clouds unconsciously disappeared
(雲の古い古い嘆きが自覚なく姿を消す間に間に)

When shall the sail, withstanding flame of destiny
(いつの日か運命の炎に耐える帆は)

When shall the gloaming in the sky
(いつの日か天上の黄昏は)

Remind you that what we were?
(僕らが何者であったのか、思い出させるだろうか?)

Calling us from the sleep back again which we were flowing down
(流れ落ちる眠りから僕らを再び呼び戻すもの)

Raining by (the) present, reigning the past, dreaming the future
(今に静まり、過去を支配し、未来は夢見て)

Walls of time will fall in yonder rain
(時の壁は遥かの雨に降られて消える)

Where shall the town in brightness, hiding splendour rain,
(輝く街は壮麗な雨をかくまい、)

Take over hallows (and) legacy and sing in the sweetest voice?
(いづこで聖なるもの、受け継がれたものを継ぎ、最も甘美なる声で歌わん?)

(at) dawning delay that is the end of passing time
(過ぎ去る時の終わりの)

That is led by ash in the blue taking us to fields above
(僕らを高みへ誘う空へと灰に導かれた未だ告げざる黎明で)

Someday will you seek yourself forever
(いつの日かあなたは時の流れなく己をさまようだろうか)

As heavenly morning summons repose
(天上の朝が憩いを呼び寄せるように)

Mourning for tumbling night, trembling light and let us go
(たれこめる夜を、震える光を悼んで、僕らに別れを告げて)

夢に見せた街

04「火星のくじら」

幼いころ、白昼夢に夢見たあの黄金の入り江を自在に跳ねる黄金のくじら。
今ならきみを具現化できる。

今再び黄金の入り江を訪ねてきみを生かしめよう。 やっと白昼を夢から現へ抽出し、培養できる今ならどの瞬間になってもきみへとアクセスできるのだ。

幼いビジョンに象られた形を降ろすその儀礼を、火星の海でとり行う時に、たしかに黄金のくじらを再び見た。

ない、ない、ないと切り捨てられた黄金の入り江の黄金のくじらが再び命を得て泳ぎ出すなら、ありえぬことが次々と具現化していく。

どうかあなたにも黄金の入り江で黄金のくじらを追うはめが降りかかりますよう。

きんのゆうひがゆれるゆれるなみの上
きんの海をおよぐくじら見つけた

まっしろのおひげで空をくすぐって
かくしたゆうひでわたしをみつけた

みえるよ みえるよ 火星の海で

きんのゆうひがゆれるゆれるなみの上
きんの海をおよぐくじら見つけた

ほんとうのおみずで風をふるわせて
ぶきみなしっぽでわたしとおどるの

見えるよ 見えるよ ふしぎなすがた

きんのかぎにかわるくじらなみの下
きんのゆうひをわすれわすれ消えちゃうの

きんのかけらかけた燃えるほしの上
きんのゆうひにゆれてむかえに行くよ

きんのゆうひがゆれるゆれるなみの上
きんの海をおよぐくじら見つけた

きんのゆうひがゆれるゆれるなみの上
きんの海をおよぐくじら見つけた

余話

05「春鳴揺」

春の空間がささと音の流れに立ち上がる時。
春の熱量が平面にふらりと立ち現れる時。
静か静かに激動を聞き分けて、きみの世に群肝の心をさしだしましょう。

激動の時代は遠ざかり、ただ千古の物語のみが青天を指さす春を歴史の表面に立ち上げる。
励起なき意図は春に激動の時代を呼び覚ます。
永続できない少年の声で、千古の物語が立ち上がる様は経路和に力と形を降ろして桜顕郷を生かしめる。

すべての有り得た経路和が一心に集う異端郷あの桜顕郷から、この春こそ帰らない。

声をたずさえて天駆ける非可換の
在りか知らずで桜顕に降り立ちぬ
(用のない歌で霞む
春に古き遊ばせ降り立ちぬ)

姿たずさえて曇りなき群肝の
心さしだしきみの世に身をあずけ
(遠く来てにじむ夜に
天の在りか溶かして吹き抜ける)

命たずさえて踏み分ける草枕
よろづ二人の巡礼を描き出せ
(一瞬を惑う言葉
今は冥府閉ざして呼び起こす)

影をたずさえて沈み込むぬばたまの
眠る姿で桜顕を教えよう
(励起なき意図で結べ 昔々降ろした春揺を)

ああ縁ある時の根で
深く深くと開かれる桜顕に
忍び降りまだ
行く手知れずの春の夜を拐せよ
(ささと時風たてて春鳴揺
綾を成す天神に春鳴揺 春鳴揺)

ああ縁ある空の果て
高く高くとあざなえる公準の
きみを見た日は
古今混交微笑みを通わすよ
(さやに射す色彩に春鳴揺
真なす青天に春鳴揺 春鳴揺)

ああ英姿さす夕暮れの
長く長くと遠ざかる葦の影
追うほどにただ
出会い頭の昔日を慈しむ
(先のない天命に春鳴揺
寄せて織る波の音に春鳴揺 春鳴揺)

ああ限りある人の牢で
静か静かに激動を聞き分ける
明暗に今 出自知らずの天神は開かれよ
(限りなき流れには 春鳴揺
歴史あやす激動に春鳴揺 春鳴揺)

真澄鏡 千の世を 温めるは反射の熱の
(大和千載に 映し出すは)
梓弓 きみを呼ぶ 豊蘆原瑞穂国は
(太古弓勢に 豊蘆原瑞穂は)

声をたずさえて天駆ける非可換の
在りか知らずで桜顕に降り立ちぬ
(用のない歌で霞む
春に古き遊ばせ降り立ちぬ)

姿たずさえて曇りなき群肝の
心さしだしきみの世に身をあずけ
(遠く来てにじむ夜に
天の在りか溶かして吹き抜ける)

余話

06「風来白(The Traveler between The Heaven and The Earth)」

波の下にも都はございます。

At one time many troops you loaded up on a hill.
Under the sea I’ve built up (the) town spread out for all time.

ある時きみは軍勢を丘に敷き、
私は海の底永劫にたたずむ都を築いた。

However (the) roar of water bids me obedience,
Shall it switch to mourning as Fate has been?

猛る大水がどれほど服従を強いるとも、
運命というものがいつもそうであるように
都を嘆きに変えることがあるだろうか?

Dreaming like the vision of day-star summoning,
Here I am, here I am.

Oh, break not silent being, while breezes weeping.

(ゆめにみせたまち)
(The town which I showed you in dreams.)


日輪の召喚のビジョンのように夢見て、
ここにいる。
風がすすり泣こうとも、
静かなる居ずまいを破るなかれ。

Had you sought for yourself in (the) sleeping town in the sea,
My song (would) be mixed in rain fall calling back who you are.

きみ、
海の底眠る都に在り方を尋ねるならば、
私はきみが何者であるかを呼び起こす歌に、雨に姿を変える。

A sea of questions doth, you ask in a static tone,
Still doth the mountains far-off give you delay voices.

数え切れぬほどの問いを
きみは静かに問うけれど、
いまだ霞む山々はその声を告げざるなり。

When will the flowing rivers take time and carry on,
Warm my town with sweet morning as mates at home?

いつの日か悠々と調べを奏でる川は時を運び、
その姿変わる事なく
懐かしき朋友の如く都を甘美な朝で温めん?

Streaming down all springing of night-star atoning,
Here we are, here we are.

Oh, efface not (the) current being, while whirlwind sailing.

(ゆめにみせたまち)
(The town which I showed you in dreams.)

贖いの明星の昇りゆくを流れ落ち、ここにいる。
旋風が水面を滑りゆくとも、
その居ずまいを正すなかれ。

Had we met in the breathing white fixed town in the sea
Swirl down, as chain of repose, falling peach blossoms.

海の底、白く変わらずに息づく都で出会うなら
息つく一時のように桃の花が舞い踊る。

Dreaming like the vision of day-star summoning,
Here I am, here I am.

(ゆめにみせたまちで、きみや きみや)
(At the town which I showed you in dreams, dear you, dear you)

Oh

Streaming down all springing of night-star atoning,
Here we are, here we are.

(ゆめにみせたまちで、きみや きみや)
(At the town which I showed you in dreams, dear you, dear you)

Let me tell the tales the cyclic.

巡り来る物語を、語りましょう。