
人は共鳴している。
「夢の青さを追う学者」は全ての経路にあり得て存在する同時性の自己と共鳴し始めた。
彼は今や東欧を思わせる森、縄文の浜辺、キツツキが守る産土の土に「時の流れのある点」として一斉に、同時に存在していると知る。
たくさんいる様で、たった一人たちの彼らと共鳴し、すべての経路和を結んだ縁起の網に気づく時、現象は中空から自在に船団となって事象を貫くものになるだろう。
現存と神話を担う奥行を得た重圧の世界。整然とねじ伏せられた共鳴の物語。
その世界の夜の様相に、きみと何度でも生まれている。
01 [WOODPECKER]
人類が放り出したその産土の土地に広大無辺の鉄塔を見た男は語った。
キツツキを名乗る塔が見守る産土の土地。そのイマーゴは普遍的にどこにでもある。今はもう忘れられているけれど確かに彼らの中に息をひそめて静かに瞬いている。
見ろ、その証拠に彼らは何を破壊したところで前進をやめないだろう。世界を辺境まで耳をそろえて無に帰したとしても必ずまた土偶を作り壁画を描くだろう。
私が生きた記憶の内にいないきみに、利便と合理が惜しげもなく削り落とし、切り捨て、舗装した道の下に埋められたきみに、私は彼の地まで出会いに行こう。
人の人たる一柱に眠る、言葉という進法では根源と呼ばれるきみを「惨劇」の二文字で歴史の中に置き去った未来を去って探しに行くのだ。
未だ彼の地できみと共に生きている証左の風、生きていたかった減衰の里心、生きているはずだったいはけなき童歌、それらのはかなきものを迎えに行きたいと願いつつ私はそこへ降りて行く。明るきと暗きが互いを呼び合う相聞歌を耳の端に留めながら。
輝く中で出会えなくても、水素の大悲でまた会える。
衰雅を抱きかぐわしく暮る夜は
まだ暖かい墓標のよう
放擲の園で人知れず咲く花に
まだ解せぬ風雅を見た
留め置けない さびた老夫の歌
取り戻せない不朽の童子の声
いとどに打ち寄せる 明暗相聞歌
在りし日へと意思をさらう
名は鳥の真似びでヤードの
鳴くことなく空へも
届きそうな短波の記号だけの挽歌だ
静寂を示すその国の鉄櫓
もう覚めない卒塔婆のよう
常盤に満ちる減衰の里心
置き忘れた社のよう
簒奪の街のいはけなきわらべ歌
もう叶わぬ命のよう
計り知れない老いた証左の風
取り戻せない冷えた勇士の火は
なすがままに錆びる文明の宝船
帆の滴は記憶のよう
陽は無常に落ちていつでも
寄る辺絶やし未来で
出会う姿浮薄で泣くことない残滓だ
鉄の鳥の波長に何を求めて
水素の大悲できみを見つけ出す
五識を研ぎ重ね合わせて
その度に出会えるきみはまだ息づく
愛しい暗がりを宿して毎秒に呼び合う
不可思議な不可知の記憶
大河の街鉄の墓に人巡りて波に伝えた
「土の記憶 不二の身なり
相思いて 愛も変わらず」
五情に冴え忍び込ませた
いまご抱く愛子にきみはまだ瞬く
愛しい謎めきを照らして
千載に見える星々の一時
意識を解き繋ぎ合わせて
根源の真砂にきみはまだ輝く
愛しい暗がりを灯して毎秒に呼び合う
不可思議な不可知の記憶
衰雅を抱きかぐわしく暮る夜は
まだ暖かい墓標のよう
いとどに打ち寄せる 明暗の相聞歌
在りし日へと意思をさらう
02「シャンバラのスフィア」
始めにピナートありき。
古来より命との対話を続けた民がある。彼らは古木の弟子として、それより降りる系譜の一糸乱れぬさざ波の翻訳者として常に森との駆け引きを守り続けてきたリボソームのまね人だ。
古木の系譜はピナートと呼ばれたが、いつしか彼らの儀式をも指す言葉となった。ピナートは昼の力を入り用だけもらい受けた生命を宿す火を夜の静謐にくべ、燃焼の色から神話を引き出す語り部の儀式。
語る者はその身を宙に保留し、神話が自らを語り出す様を身をもって知ることとなる。
リボソームのまね人たちは昼が絶対的な王権を地に敷き、夜が中庸の姿なき森のさざめきにひれ伏し、教えを乞う相反する合一を遥か昔から語り継いだ民。何たる人の姿の最適さ。
ところが何万年も続いたこのサイクルは時を経るにつれて均衡を崩し、まね人たちは詐欺師の中傷で文字果つる地へ迫害された。そして今や地の果ての冷ややかで麗しい豊穣はロッシュの限界値を侵され崖っぷちの死に体の有様で無き者とされている。
私は今、喜んでこの身を迫害に投げ、リボソームのまね人たちとの対話を試みようと思う。
始めにピナートありき。
始まりの冬のリボソームの語り部は
森に生まれ来る聖節を明かして
何億劫の時となる
分断の国の異邦人は帰り来て
炎の映し出す気まぐれの神話に
命のフラクタル
ピナートで創造を統べて
ピナートに生き死にを習う
停滞の街の哀轟理を逃れ来て
土に倒れ伏しそばだてる言葉は
千里を駆けた波となる
統合の夢の物語を焚き上げて
流れ流れだす深淵の記憶は
上古の鍵となる
ピナートで創造を統べて
ピナートに生き死にを習う
シャンバラのスフィア
梵天に馴染むリボソームの語り部は
風をもてなして送り出す儀礼に
大地を馳せたグルーオン
統合の夢の物語は結びつき
互いに紡ぎ合う森の火の揺らぎは
命の波となる
ピナートで創造を統べて
ピナートに生き死にを習う
シャンバラのスフィア
03 「魂の連続体」
古来、人間は社会に「生きるものの層」と「生かしめぬ層」が存在することを知らなかった。
それゆえ、「生かしめぬ層」に生まれ落ちた者たちはただ異邦人と呼ばれ、異端と無視され、ついにはいないことになっていた。
いない彼らはその魂の欠片を埋めるべく、一つの物事に異様に執着した。
数に定住する者、語学から熱量を自在に取り出す者、水に呼ばれる者。
「夢の青さを追う学者」は燃焼の色から神話を引き出す儀式、ピナートに自らの欠けた魂を捧げ、輝かしい不在と引き換えに中空に自在に穴をあけ、夜が崩れ落ちるほどのビジョンを胸に招いた。
さぁ、現象はもう船団となって事象の境を越えて来た。
今すぐ祝うに値せよ。
暗号の世を転がり落ち 卑しむだけの過去はない
整合の声を並べ立て 倒れるための余地はない
好転に焦がれてこぎ出す暗喩の神話を打つ波なく
途絶え途絶えて寄る辺なく 縁起の森に古びた
宣言の予知を信じて開く
まだ見ぬ夢と顕在の空を昇れば
天変と重力波の奏でる夜は急
必ず家となりあなたを迎えよ
梵天の前に倒れ伏し 一人尋ねる生あれど
途絶え途絶えて寄る辺なく 縁起の森に古びた
廃合の都市に凍り付く 求めるだけの解はない
結合の連鎖潜り込む 惑わすだけの愛はない
巡航の網に絡めとられ
未来の帰結に今日のディレイ
巡り巡りて指し示す 月日を渡れ船団
潜在の才を信じて開けた
在るべき時と空間の磁場の慈悲あり
確信とファンデルワールスの揺れる地に割かれ
必ず在るなら必ず応えて 必ず迎える
シャンバラのスフィアを臨む燃えるビジョンは
叶わず咲く無言を生かしめて
消え行くきみを拾うよ
シャンバラのスフィアは
点在の意志を頼りに開け
宙に架ける確信の帰る日に立ち
展望の船団に乗って越える死の果ては
必ず在るから必ず応えて 必ず迎える
シャンバラのスフィアを臨む 燃えるビジョンは
かまわず咲く無人を生かしめ
知られぬ園を染めるよ
シャンバラのスフィアを臨む 燃えるビジョンは
語らず咲く夢想を生かしめて
序列の底で歌うよ
シャンバラのスフィアを臨む燃えるビジョンは
叶わず咲く無言を生かしめて
消え行くきみを拾うよ
時の流れのある点で、かくの如くと我聞けり。
時の流れのある点で、人々を孤独から救うべく神が降った。ゾアの民はこの神を厚くもてなし、教えを乞うたために神は彼らにダンマ・チャントラを贈った。
ゾアの民達はダンマ・チャントラを育み、熱心に夜を磨き上げたのでその都市は地に満ちるようになる。
しかし時を経るにつれ、地上の栄誉を一身に受けたゾアの民達はダンマ・チャントラを煩わしく思いはじめた。なぜなら
04「モスカの秘跡」
それは形を留めず刻一刻と自在に姿を変え、予測がつかず放置すればたちどころに腐ってしまうため常に気を配らなくてはならなかったからだ。
次第にゾアの民達はダンマ・チャントラを面倒くさがり放置したため、それらは一所に集い腐って黒い呪いとなりついに人々を襲うようになったのだ。
最後に残った民達と一人の長は阿鼻叫喚を果敢に逃れ、ブランカの丘に辿り着くとその地に「モスカ」を築き、民の意思を形と降ろして阿僧祇のタイムラインに逃して倒れた。
……私はこの「モスカ」を手に入れ、自らのダンマ・チャントラを用いてその意志への接触を試みるつもりだ。
夢の高くまで人は焦がれ 故の深くまで人は溺れ
夜は窓には焼き切れる 開闢栄華の向こうで
わずかの展望もなく王族ゴレムも惑えよ
届かぬ陽に語らぬ火に戻らぬ日に焦がれ死ぬ
夜はまぶたの幻 無明の嫌疑に閉ざされ
都市は業には焼け落ちる諧謔叡智も溶かして
脳裡の健忘となり 天降る呪術も忘れて
育む地を実れる知を流れる血を知らず来た
都市は錯視の幻 無名の嫌悪に守られ
蒙昧に巻いた歴史を紡いでは猛る伝記の厚さに
灯台の下に逃れて紡いでは憩う伝信を見た
神は孤独に倒れる祀りの手引きも逃して
呪詛たる停滞は降る王族ゴレムも問わずに
奮わぬ志を響かぬ詩を影なき死を喰らい立つ
神は無限の幻無形の原始と詰られ
蒙昧に巻いた歴史を紡いでは猛る伝記の厚さに
灯台の下に逃れて紡いでは憩う伝信を見た
親しき奇跡 今丘に降れ
等しき日を言われなく招く
愛しき御業 卑近を綴れ
古の性 知新に宿れ
夢の高くまで人は焦がれ 故の深くまで人は溺れ
炎に形を降ろせ輝く炭素の波紋で
炎に力を降ろせ香う緑の記憶で
奮わぬ志を響かぬ詩を影なき死を喰らい立つ
神は無限の幻無形の原始と詰られ
蒙昧に巻いた歴史を紡いでは猛る伝記の厚さに
灯台の下に逃れて紡いでは憩う伝信を見た
親しき奇跡 今丘に降れ
等しき日を言われなく招く
愛しき御業 卑近を綴れ
古の性 知新に宿れ
05「縄文ダイナミクス」
この世の流れの一切が渦巻く、海に沈んだ豊かな大陸「コトトリノカミクラ」。
コトトリノカミクラの血を継いだ案内人、マハージャータカはとうとう私の霊魂を迎えに来た。彼女は私の中の潮の響きにその血脈を聞いたのだ。
「あなたが数多生きた過去の一つを今生きて続けましょう。」
私の故郷、コトトリノカミクラ。今、縄文の系譜を己の中に見つけた私は、ジャータカのきみを追いその地を訪ねよう。
そして再びきみとその地に生まれよう。
人の海に凍える羽は
その先見を水底に投げた
いつかと沈めた夢宮流れ着き 出会おう
砕かれてたゆたう国を
千夜一夜繋げて見せれば
未来にかざしたトーチに エンデレの系譜
帰り着く古巣に 惑うことなく
打ち続ける鼓動は きみに合わせて
人の揶揄に埋もれるきみを
弔いの空舟に乗せて
静かに迎えは来たりて
遠からず出会おう
引き裂かれて朽ち行く花は
彩られて言無きを染めた
古きを注ぐ清廉に 縄文の合図
帰らざる現に 語ることなく
槌振るえる姿は ハレの祝いか
懐かしく届く声 縄文の窓辺で得た
滅びなき火に焦がれ 口に惑うよりも
流れずに潜む声 情景の色と溶かし
変わりなき野に立てば きみと生まれている
黙せずに誘う声 ジャータカの旅路で得た
限りなき陽を求め 陸に泳ぐよりも
途切れずに響く声 城門の鍵と変えて
言離の海の下 きみと生まれている
「夢の青さを追う学者」は系譜の刻まれた古木に一年ほど腰掛け、天を仰いで「生かしめぬ層」の存在を知った。
それは彼が自ら望んだ複数の層の内の一つに過ぎないが、頂上でもなければ最下層でもないこの中庸の位置は削り取った昼を夜の静謐にくべることでその熱をエネルギーと変換し保たれている。
蒸気が歯車を回し、熱がエネルギーに変換されることに気が付いたあの産業革命は、この「生かしめぬ層」を真似た相似形であるが、本来のこの層で変換されるのはそれよりももっと壮大で実体のない、思考と肉体を一つとして宇宙に対峙する駆け引きであり、対話であり、それこそがピナートの儀式が古木の民に受け継がれてきたその理由だったのだ。
そう考えた学者の脳裏に少女の声で天啓が宿る。
左右の耳の間に搭載したこのアルゴリズムの森は舞い踊る獅子と共にあるからこそ、それは制限の檻の名を着た無限の姿であると。
そう、「生かしめぬ層」に生きる狂人たちはうっかり舞い踊る獅子と共に生きてしまったからこそ「生かしめぬ者たち」と断罪されたのだと。
それならば、と。
それならば、彼は満ち足りた思いで「生かしめぬ層」を隅々まで生きることにした。
06「知陸の人よ」
四方を閉ざす夜を組み上げ
きみの檻の中羽ばたくものは
思考を開くガリオンのよう
軸索の航路で届けよう
瞬く火花あの月を模して
運ぶ語り得ぬ電信を
忍ばす意味は幾重の帆に連なって
渡る知の子午線を
聞こえぬ声デジャヴに聞いた
きみが檻の中投げうつ鍵は
(聞こえぬ声デジャヴに聞いた
きみが檻の中投げうつ富)
破滅を開く嘘の楽園
ジグザグの足場を行けぬよう
(愚者を讃えた 死者のガーデン
舗装の小道さえ個性だと)
取り上げられた 地に着く足は
切り捨てられたジャンクの宝
(走るたびの鼓動さえああ
枷と殺して永遠を得た)
閉ざされたきみは 舞い踊る獅子を愛す
アルゴリズムの森だ
(ホログラムに死した死地を
愛すアルゴリズムの森)
静かに迎えは来たり
シナプスで繋ぐ星々のストーリー
静かに届けに行こう
歓迎のリズム踏み慣れてもう
噛み合う歯車に地球は回る
目覚めるたび複雑のカオスは 始まりの金色の畑は
瞬く間に流れ出す動作で 猛る獅子に変わるよ
目覚めるたび出力の萌芽は 隔絶の砦の肌は
守り手今は 海の香に似せた奇想のきみを象る
思いを乗せ走る牢獄は生の仕掛けの
船団の例えに今は 誰の上にもある
目覚めるたび制限のリアルは 奸智の地に無限のきみだ
惑うことなく鼓動のリズムに踏み出す身を信じる
賢しき理致 整合の玉座で 嘲笑え局所なき檻を
流れるような獅子の背にありて 無量の丘を見晴らす
目覚めるたび複雑のカオスは 始まりの金色の畑は
瞬く間に流れ出す動作で 猛る獅子に変わるよ
目覚めるたび出力の萌芽は 隔絶の砦の肌は
守り手今は 海の香に似せた奇想のきみを象る
目覚めるたび制限のリアルは 奸智の地に無限のきみだ
惑うことなく鼓動のリズムに踏み出す身を信じる
賢しき理致 整合の玉座で 嘲笑え局所なき檻を
流れるような獅子の背にありて 無量の丘を見晴らす
07[10⁻³³≧angel]
穂に見せかけるうねりの底の底の底まで
ただ連なって耳打つ 熾火に似た孤立は
この共役の甘きを熱に溶けて味わう
繰り返さずの軌道にきみはある きみはある
波打つ穂に因果は割かれ 今は
去り行く背に入れ替わる縁起あり縁起あり
誰の矢にも怯むことなききみは
遠からずと囁く声 死せる淵で聞いた
(無二の)
Ha… 自我の中の想いだけが
視点の深くで きみとある きみとある
(きみの中に投げる 探索の声 光と)
夜の側で 織り上げた 反感のノスタルジー追い求め 追い求め
(照らす 芯の闇に 萌芽の我を灯し
揺らがせ)
未来の火を ただ動力に熱に満ちた本質で 透過の地を照らし
(未来の鐘の音だけ聞け 震えて迷わぬ様に)
昇るような理非の感覚と足場に咲く量子場に 踏み出す摩擦に生命を
(沈むその身の内にこそ たたずむ
きみの主観だけに 生命を)
占おう 科学の岸で 忌憚の場で
エンジェルは きみだけの時に微笑もう
冥い 主観だけを 受け取ろう
聖堂からフォーラムへ 神性から
父なる知の際で太古を見せる
砂時計に波の音
占おう 理性の淵で 奇譚の雨
唐突に 力学を名乗り降るだろう
やがて祝福から解明へ 静けさから跳躍の 天使の美を その領域(レルム)をこの手に
砂の様に運ばれ預けよう
自我の中の想いだけが 視点の深くで
きみとある きみとある 都市の深さ
測るだけの 定量のエントロピー
与えよう 与えよう
未来の火を ただ動力に熱に満ちた本質で 透過の地を照らし
昇るような理非の感覚と
足場に咲く量子場に 踏み出す摩擦に
忌避の中の覚えだけが 智見の深くで
きみとあるきみとある
(きみの中の熱は 探索の声 光が)
意図の外に誘うような
緞帳のファンタジアに
きみとある きみとある
(伸びる 真の闇に
唯我の霧と化し くゆらせ)
過去の空に満ちてうろたえて
さざめく世の量子場で 異端の身は語らう (天使の歌声だけ聞け 震えて迷わぬ様に)
臨む様な慈悲の大海と 潤す血の数式に
この世の支えに生命を
(望むその身の内にこそ 与えよう きみが生きるための 生命を)