童子物
死を経て彼岸のすすき野を自在に駆けまわり、夭折を以て永遠を存在する童子物語。
幼子、盂蘭盆の送り火に誘われて、彼岸の鬼門閉ざされし折にかの異郷へ迷い込みたれば。
瞬時にして呼ばう父母の声も忘れ去り、冥府の土へ身を返上する。
灯篭流しを追いかけて骨を父に返し、肉を母に返す。迎え盆と送り盆の狭間に見た水に隔つ里と異郷。幼くして世を外れる童子の最期を見たものはなく、その末期は杳として知れない。
01「翁童子」
省みずと行く時の根はまだ水を覚え
遥かを乗せ過ぎた万象に留まらぬ寂しさ
省みるを知る人の日はまだ陰りを飲み
末期の夢見せた輝きに火の迎え映した
安らかなりと眠り目覚め行く
森に伏して聞く虫の音はただ陰りを説く
世をまたいで揺らぐ狐火はいはけなきしるべと
あぢきなしと散りつまされた身で外れた夜を
末期の目に閉じた幽邃に舞えよ舞えよ
安らかなりと眠り目覚め行く
肉身もてそろえて母に返し
入れ替わる青蓮華に異郷あり
骨身もて数えて父に返し
打ち寄せる盂蘭盆に青海波
無縁孤児を呼ぶ琴の音はもう水に隔つ
波間の端溶けた色あいで世の行方あやして
浅き夢と歌つままれたように現を詠む
末期の水 雨の水かさで送り火を震わせ
省みずと行く時の根はまだ水を覚え
遥かを乗せ過ぎた万象に留まらぬ寂しさ
浅き夢と歌つままれたように現を詠む
末期の水 雨の水かさで送り火を震わせ
安らかなりと眠り目覚め行く
中陰にとどまる分岐に思いをはせ、その到来を夢に見た。身は破れ、心は千々に巡りても。
決意に正解無く、日々その結果を生きるのみ。狐の目で見る里は昼夜に新たな姿へ化生し、とどまることあたはず。それでも反魂香を焚けば浮かび来るのは人たる身の有ろうはずもない未来。趨勢や潮流は誰の身を以てしても捕らえること叶わず、抗うこと詮なきに。これも一つの縁起である。
私は満月の夜に下駄を下ろし、狐となりました。この道は自分で選んだのです。
しかし、はたしてそれは因果であったのか、それとも偶然が韻律を踏んだのか……。
02「狐と翁」「反魂狐」
遥かな昔に語り継ぐ 唯だ古き言葉に候へど
あの月からあの月から
舞い落ちた因果が目を覚ます
あわいの世に身を落とし
陶酔の境地に遊べども
三界から三界から振り捨てた分岐は香しく
妖しの月に破れぬ海 すくえど枯れず
遥かな国を思わせ 眠らない
天網震わせ韻律を得る
諸行に不動の理で あの高く輝く軌跡には
始まりから 始まりから
返らざる天地が刻まれる
御魂の声 胸に得て幽邃の浄土に洗えども
三界から三界から
吹き抜けたビジョンは懐かしく
妖しの月に破れぬ海 すくえど枯れず
遥かな国を思わせ 眠らない
天網震わせ韻律を得る
反魂の中の姿は いつの時も留まれり
ただ薫習の定め 心は流れて
よろづの迷いを駆け巡る
悔恨の中の悟りに いつの時か巡り合う、か
訓戒の沙汰に 心は破れて
寄る辺の波間に 揺らぎけり
妖しの月に破れぬ海 すくえど枯れず
遥かな国を思わせ 眠らない
天網震わせ韻律を得る
吉凶に裂けた姿は 三世に得た宿業か
ああ三笠の山に尋ね聞く問いさえ
糾う二六のはやり歌
勧請に果てた姿は滂沱と織る祈り声か
彼岸のふちに畳なはる浮世に
あがなう弥勒の子守歌
反魂の中の姿は いつの時も留まれり
ただ薫習の定め 心は流れて
よろづの迷いを駆け巡る
悔恨の中の悟りに いつの時か巡り合う、か
訓戒の沙汰に 心は破れて
寄る辺の波間に 揺らぎけり
足蹴の様に咲き誇る、呪いの上に成就した日隅の都を知らぬなら、必ず必ず呪われよ。
03「本調八雲」
愛しく思う胸の隅をふさぐ
嘘で閉じた四方山を痛みを込めて睨めつけよ
聞し召せ 天の斑駒の耳振り立てて
理致に明けぬ陳情は足蹴の様に咲き誇る
加賀の瀬に惑う洞の朝を騙り
呪詛で祝らば饗宴は怒りに穢れ焼け落ちよ
聞し召せ天の斑駒の耳振り立てて
(さおしかの耳振り立てて)
「比翼」のあるべきに清くあらば
必ず必ず呪われよ
想うことなきにして弔えば
潰す空知らぬままきみの影
八重の帆に出づるきみの朝は実り
今や満ちた馥郁は罵倒の国を遊ばせよ
聞し召せ天の斑駒の耳振り立てて
(さおしかの耳振り立てて)
死地に粋の戯れは知られる時を待ちわびる
聞し召せ天の斑駒の耳振り立てて
(さおしかの耳振り立てて)
「連理」の語り草になびくなら
必ず必ず呪われよ
地に深く追いかける経路和に
ひらり人問わぬままきみの影
「肥沃」の合言葉を誇るなら
必ず必ず報われよ
想うまま惜しむまま駆け去るは
素地に知る御舎のきみの影
昔々に嘘に生まれた物語は、今もまだ嘘のまま。
だけどもしもあなたが、あの川を渡らぬままわたしのおとぎ話を、この八月が終わるまでのほんの少しの間だけ古いゝ痛みの中に思い出してくださるのなら
お化けの言葉でわたしにだけこっそり教えてください。
くれぐれもこの世にだけは生きないように気を付けて。
04「一来童女(いちらいどうじょ)」
ぬけがら迷子を呼ぶ声は
鬼のいぬ間に口ずさむ小唄
命を夢見てすきま風
里の時間で生きている
何もかも今は 夕焼け小焼けのかくれんぼ
何もかも今は 呼べども呼べどもこたえなく
ねんねの里はどこ行った
あの山迷ってどこ行った
ねんねの里はどこ行った
お話たどってここに来た
痛み中の懐かしさに
ススキの原をかきわける袂
川の向こうのおとぎ話
お化けのふりで生きている
何もかも今は 本当で嘘の物語
何もかも今は
語りに語れど虫の声
ねんねの里はどこ行った
あの山迷ってどこ行った
ねんねの里はどこ行った
お話たどってここに来た
ねんねの里はどこ行った
あの山迷ってどこ行った
ねんねの里はどこ行った
お話たどってここに来た
(わたしは常にいませども
現ならぬぞあはれなる
人の音せぬあかつきに
ほのかに夢に見え給ふ)
ねんねの里はどこ行った
あの山迷ってどこ行った
ねんねの里はどこ行った
お話たどってここに来た