楽曲解説:魂を連続させるグルーオンを追う青い学者

楽曲解説:魂を連続させるグルーオンを追う青い学者

「魂の連続体」歌詞

関係的奇形
中空に扉を開け、関係を自在に取り出す者。
彼にはもはや存在も命もなかったが、関係だけがその箱の底に残った。

古代、人間はまだ気づいていなかったが社会には2つの層があった。
「生きるものの層」と「生かしめぬ層」だ。
「生きるものの層」はほとんどの人間が認知していた通り、普通に生まれ来てこの世を楽しみ、地の上で生きるものたちが存在した層だ。

「生かしめぬ層」に生きるものはそれよりずっと少なかった。
彼ら自身も自らが「生かしめぬ層」に属しているとは気づいておらず、彼らは自らを異邦人、奇人変人その他の近しい言葉で称呼した。

「あなたが俺を助けてくれたのか?」
「……助かってない。ほらこれがお前の死体だ。」
「残念だったな」
「何が?」
「いや、せっかく今日まで生きてきたのによ。」
「しかしせっかく死んでくれたのだからお前に一つ教えてやろう。
お前は生かしめぬ層の人間だったのだよ。」

ダンマ・チャントラは上記のことを詳しく述べた後、付け足して言った。
「生かしめぬ層の人間は皆魂の一部を生まれる前に置いてくる。
そしてそれを埋めるべく一つのものに命を懸けて執着するのだ。
電車に魅了されるもの、車にとらわれるもの、語学にエネルギーを得るもの、水に呼ばれるもの。」

「ピナートの儀礼は燃焼の色より神話を引き出すが、その色は生かしめぬ層の者の分断された魂が燃えているのだ。」
「では、俺が見たあの無数の塔は…。」
「それがお前に欠けたものだ。人の言葉で表すならば存在と関係性だ。
それがお前にはなかった。」

「誰かと話している途中で相手がふといなくなることがあっただろう。」
「ああ。」
「メールのやりとりで突然相手が音信不通になることがあっただろう。」
「そんなのはしょっちゅうだった。」
「それは相手に悪意があったのではない。
お前に他者と結ぶための関係性とその土台となる存在がなかったからだ。
決して恨むには値しないものだ。
お前は関係的奇形だったのだ。」

「そうか。それじゃぁ……仕方がないな。」
「そうだ。そしてそうして幾世を生き死にし、繰り返したこの世への不在をくべて得たビジョンはもう夜に収まり切らぬほどの船団となり事象の境をやって来た。
だからお前は今こそ祝われるべきなのだ。」

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「魂の連続体」

この曲はタイトルが真っ先に降りて来た。
むしろタイトルから回収した曲だ。

決まっていたのはタイトルと、KAITO V3を低音で歌わせることだけだった。
ボーカロイドは総じて高音に強く低音に弱いがKAITOはE1くらいまでなら補強トラックなし、すべての音をstrong accentに設定すればダイナミクスの強化なしで使える。
「魂の連続体」の最低音はC1だがE1以下は補強トラックを新たに一つ追加し、32分の音を重ね掛けして補強して何とか聞き取れるくらいの声にしてある。

ただしKAITOに限らずボーカロイドには共通して「高音域で声量が跳ね上がる」という特性があるためミックス作業の時にかなり細かくオートメーションを書く必要あり。
ボーカロイドで低音ボーカルが好まれないのはこのあたりが理由だと思う。

5~6年ほどコンスタントで使い続け、KAITOの本領は中高音のロングトーンだとは重々承知の上で今回は人間シンガーでも難しいド低音を歌わせたが、KAITOは持ち合わせた声の明るさもありかなりの低音でも声が太く暗くならないのが強みだ。
今回はジェンダーファクターを75で入れたがこれでも軍歌歌手のような太い声をギリギリ避けた。(ジェンダーファクターは数値を上げるほど声が太くなる)

KAITOは滑舌もよく、ほかに所有している鏡音よりも全体的に歌詞が聞き取りやすいものの「りゃ」「りゅ」「りょ」などの拗音は音符を短く切って調声すると発声が間に合わないことがある。
また、いつかツイッターでも言ったがラ行の発音がLのLa Li Lu Le Loに聞こえる。
かつ、今回あらためて気づいたのが「だ」の発声の子音が弱く、低音になるほど「た」に聞こえることがわかった。
逆にベロシティを下げた場合カ行やサ行の発声が極端に強く、ディエッサー必須なためこのあたりの改善をKAITO NTで期待する。

楽曲そのものに関しては今回も「夢の青さを追う学者」を追うCommunitariumアルバムに属する一曲。
ハープが特徴的だが実は一部にyangquinという中国の琴が隠れている。
間奏でなる笛の音はアフリカの民族楽器とアンデス地方の山を越えていく循環の音。
パーカッションには日本の太鼓と雅楽器を思わせる中国の民族楽器。
冒頭から入ってくるサンプリングはカトリックのボーイソプラノソリストの声に打ち込みのチェコの少年合唱団のソリストに存在しない言語を歌わせた声を混ぜたもの。

世界各地の音は結局どこでもない地にあるのだ。
どこでもない場所はむしろどこでもあるのだ。

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